■策士は一つ上をいく■   刹那花厘さん

「台輔。何処に行く気ですか?」
執務室の扉を閉めさぁ出かけようとした矢先、後ろから冷ややかな言葉を投げかけられ 六太はビクリと後ろを振り返る。
「え?あー…ちょっと散歩」
「散歩ですか。では溜まった仕事は勿論片付けてありますね?」
しどろもどろに答えた六太に、朱衡はにっこりと笑んで六太に問い返す。
「う………お、俺もう行くわ。じゃ!!」
答えに詰まった六太は、逃げるが勝ちとばかりにそう言い残して回廊を走り出す。
「台輔!!」
逃げられた。と呟いた朱衡は珍しく眉を顰めている。
ここ最近は尚隆と六太の外出が頻繁で、溜まっている未処理の書類がいつもの倍以上に膨れ上がって、頭痛の種になっている。
今日こそは!と意気込んだものの、尚隆にはさっさと逃げられ、挙げ句の果てに六太も取り逃してしまった。 ため息を零しこめかみを指で押さえた朱衡は、明日こそは2人を縛ってでも卓に向かわせる決心をした。


「今日こそは、溜まりに溜まった書類に目を通してもらいますよ」
「わかった」
素直に頷いた尚隆に、朱衡は訝し気に書類を手渡す。
「珍しく素直ですね」
「たまには仕事もせんとな」
「たまにではなくていつもやって下されば、こちらは助かるのですけど」
勿論台輔も仕事をして頂きますよ。そう告げれば六太もはーいと軽い返事を返す。
「お二人が逃げない様に、帷湍を監視役に付けておきますから。私は仕事があるのでこれで」
大人しく卓に向かって仕事を始めた2人に、嫌な予感を感じながらも朱衡は帷湍と入れ替わりに、部屋を出る。
「なぁ、どうすんの」
並んで仕事をしていた六太が、隣にいる尚隆を肘で軽く小突いて小声で話しかける。
「行くに決まっておるだろう」
顔を見合わせてにやっと笑った2人は、こそこそと作戦を練り出す。
「口はいいから、手を動かせ手を!!」
何やらこそこそと話している2人に、帷湍は仕事をしつつ叱りつける。
その時だった。
卓の上に置かれた花瓶を六太が肘で落としてしまう。
床に落ちた花瓶は勿論割れて、無惨に花が散っている。
「やっちゃった…ごめん」
「台輔はそんな事なさらなくていいですよ」
すぐに割れた花瓶の欠片を拾い出した六太に、帷湍が言う。
「…ッ……痛…」
「どうした?」
「切った」
小さく唸った六太に、尚隆が上から覗き込む様に訪ねる。
指を押さえた六太は、尚隆を見上げる。
帷湍は六太が怪我をしたと聞いて青ざめる。
「大丈夫か?帷湍、ちょっと黄医の所まで連れて行って来る」
「あ、ああわかった」
おろおろとしていた帷湍に尚隆はそう言うと、六太を連れて部屋を出る。
パタン。
部屋を出た尚隆はドアを閉めて、六太と顔を見合わせる。
「上手くいったな」
してやったりと2人は笑い合う。
勿論六太の指には怪我した跡などはない。全ては部屋を抜け出す為の作戦だった。
後でバレた時が怖いが、そんな事は後々考える事にする。
「では、行くか」
「うん♪」
上手く部屋を抜け出した2人は、騎獣がいる厩に足を向ける。
そしてたまに騎乗しようとした2人に、背後から声がかけられる。
「どちらに行かれるんですか?」
振り返った先には、いつの間に来たのか朱衡の姿。
「えっと……うわっ何するんだよ!?」
言い訳を考えていた六太は、朱衡の行動に声を上げる。
縄を手にした朱衡が、尚隆と六太を有無を言わさずぐるぐる巻きにしたからだ。
「腕を上げたな」
「はい、おかげさまで」
「にゃははははははははは」
縄に巻かれた尚隆がそう言えば、にっこりと笑った朱衡が答える。
その目はまったく笑っておらず、寧ろ物凄い威圧感を感じる。
朱衡を取り巻く異様なオーラに、六太は最早笑う事しか出来ない。
「もう逃がしませんよ、きっちり仕事をしてもらいますからね」

極上の笑みで告げられ、尚隆と六太の背筋にひやりとした何かが走る。
ひっ捕らえられた2人は、朱衡に連行され仕事をしたそうだ。

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刹那花厘さんから頂きましたvv なななんと今回の企画の3位イラスト、
『尚隆と六太をひっ捕らえた朱衡』を小説にして頂いちゃました!!
  私がつらつらーっと書いた駄文まで、きれいに入れて下さって・・・! 
嬉しいです〜〜vv ありがとうございます!
やっぱり朱衡は玄英宮で最強なのですよね(笑)

そしてサボリ魔主従、この二人が仲良くハカリゴトをしていると、
やはり何やら嬉しくなってしまいますね〜♪
延主従はこうでなくちゃあ!(官吏は過労で倒れそうですが)

刹那花厘さん、細やかなお心遣いを、本当にありがとうございましたvv
('02/11/20)

刹那花厘さんのHP→「螺旋夢遊」
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