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■陽子と景麒■
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「………主上…」
地の底から這い出たような声に、陽子の表情は一転して青くなった。
たっぷり一呼吸おいてから恐る恐る振り返ると、盛大に眉を顰めた景麒が背後に仁
王立ちしている。思わず、手からはらりと落書きが落ちた。
「け、景麒…」
「…何をしていらっしゃる、とお聞きしてもよろしいですかな…?」
桂桂がこそこそとその場を立ち去っていくのが気配でわかり、陽子は心の中で悲鳴
をあげた。
「いや、ほらっ、気晴らしにちょっと、桂桂に文字でも教えてやろうかな、とか、
さ」
「……文字?」
景麒は足早に動くと、陽子の手から落ちた落書きを拾い上げてまじまじとながめ
る。
「そう、文字ですか。ではここに私の名が書かれているということは、恐れ多くも主
上自ら、慶の民人に私の名をお教えくださっていたということですか?」
「あは、はははっ」
「いやあ、私はてっきり、この面妖な人物画が私を指すのかとばかり思ってしまいま
したが」
「あはっあははははははははは……」
「………」
「……」
金波宮に雷が落ちる。
差し上げたきよた家さんから頂きましたSSです!
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