■あやりさん■
タイホ起きて下さい

冗祐の苦悩


朝。
日が昇り徐々に金波宮が光の満ちてくるころ。
冗祐は主である景麒を起こしに行く。
実は景麒は無茶苦茶寝起きが悪い。
なかなか起きない。
揺さぶっても声かけても起きない。
しかも寝ぼけて殴られることもある。
そういうときは本気で麒麟は慈悲の生き物なのか疑ったりするのだが。
なにはともあれ。
冗祐が景麒を起こすのが日課になっていること、それはそれは気の重い仕事だった。

・・・。
無言で景麒を見下ろす冗祐。
とは言えども、冗祐の姿はそんじょそこらの普通じゃないためその光景はなかなか目覚めにスバラシイものではあるのだが。
「う〜ん・・・」
なのやら苦悶の表情の景麒。
布団を握り締める手はきつく力が入り、白くなっている。
どうやら悪夢を見ているようだがそんなことは冗祐の知ったこっちゃないので問答無用に起こしにかかる。
シャッ!
寝台横の窓のカーテンを開けた。
光が部屋に差し込み始めた瞬間。
「しゅじょおぉぉぉぉ!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」
いきなり叫び、がばっと起き上がる景麒。
同時に驚きの悲鳴をあげる冗祐。
冗祐の心臓は(あるのかな?)破裂寸前まで追い詰められた。
「なんだ・・・お前か・・・」
「・・・一体、今の叫びはなんなのですか・・・?」
やや息を荒くして景麒を見ると、景麒はふっと息をついた。
「いや・・・主上と私が・・・ふっ・・・」
そう言ったきりアンニュイな仕草で窓の外を見る。
「ああ、また主上と恋のらんでぶーとやらの夢でも見られたのですか?」
王と麒麟が恋だなんて予王じゃあるまいしそんなのあるかってんだ。
という冗祐の心の声はもちろん表に出ないが
「なんだうらやましいのか?」
ふっと鼻で笑う景麒。
「・・・・・・」
無言で無視。
朝から疲労度満点なので答える気もなし。
もとからそんなものないかもしれないが。
こうして冗祐と主上にトチ狂った麒麟の一日は始まる。


昼間。
景麒はこれでも一応台輔なので政務にとりかかる。
が。
「しゅじょうぅぅぅ・・・」
机につっぷしさめざめと泣くのは一応のところの台輔。
今朝は朝議で陽子は浩瀚との話し合いがあるからと景麒のことはほったらかしだった。
政務中は麒麟が堂々王とらぶらぶ仲良くできるときなのでそれがないと景麒はだめになる。
「はあぁぁ・・・」
こっそり、昼間は景麒の影からの護衛にあたる冗祐はそんな景麒を見てため息をつく。
本気で主上ばかだな・・・。
なんてこっそり思うがそんなことを思うのは日常茶飯事である。
そんな自分をちょっぴり哀れに思ったりする冗祐だがいかんせんこんな麒麟に捕まってしまったのだからいかんせんどうにもしがたい。
昔の、予王がいたころの景麒とはかなりちがくなってしまったが・・・。
と、そんなことをつらつら思っていると。
がばっ!!
「あ゛!?」
いきなり景麒が身をおこした。
「どうなされましたか・・台輔・・・」
「あ?・・・ああ。いや・・・なに、主上がこちらに向かっているようだ・・・」
その顔は平静を装おうと努力しているのがはっきりわかる無理な顔。
やや口びるが笑う方にひくついている。
「よくおわかりになりましたね・・」
「そりゃあ、私は麒麟だぞ?王気が見えなくて何が麒麟だ」
「まあそりゃあそうですけど・・・」
ふと、王気には対麒麟のフェロモンでも含まれているんだろうか、と疑問を持った冗祐。
冗祐とて陽子のことを王と認め、仕えてはいるがなぜこれほどまで執着するのかはわからなかった。
「では主上はこちらへいらっしゃるので・・・?」
「きまっているだろう。こちらにくるとすれば私のところしかあるまい」
胸をはって答える景麒だが、冗祐はふと、こちらの方向ーつまり陽子が向かってくる方向には景麒の政務室だけでなく遠甫の私室もあったなあ、と考えた。
横目でちらと景麒を見ると、それはそれは嬉しそうに政務をこなしている。
・・・見た目だけ。
筆を持って書類を書いているように見えるがまったくうわのそらでろくに進んではいない。
・・・パタパタパタ。
かすかに聞こえるのは軽い足音。
複数の。
陽子はどうやら誰かと一緒らしいが、景麒はそんなことおかまいなしに顔が輝いている。
「ふふふ・・・」
怪しい笑い声までもらし始める始末。
冗祐はちょっと先を予感して景麒から離れた。
・・・パタパタパタ・・・・。
「・・・・・・」
陽子は、あっさり景麒のいる政務室前を通過した。
遠ざかる足音と共に響くのはかすかな笑い声。
・・・聞き覚えのある、笑い声。
「・・・またねずみかぁぁぁぁぁ!!」
「た・・・台輔!!落ち着いて・・・!!」
聞き覚えのある声は楽俊のもの。
楽しそうに笑う陽子は景麒のところに顔も見せずに楽俊と共に通過したのだ。
「なぜ!!なぜ主上はあのねずみばかりを・・・」
あばれる景麒をなんとかなだめるが、冗祐自身むだだろーなーと思ったとおり聞きやしない。
「おお・・・しゅじょぉぉぉ・・・・」
そしてしまいにゃまた泣き始めた。
冗祐はとてつもなく大きなため息をついた。


夜。
景麒の身辺警護はもちろん続く。
『景麒、お前だけが頼りだよ』
「しゅじょおぉぉぉ・・・」
「・・・・・・」
毎夜のこととはいえ、一国の麒麟が、しかも堅物で知られる景麒が陽子人形に抱きついて擬似音声で心を慰めていると知ったら・・・。
・・・とりあえず雁の主従コンビは爆笑するだろう、と思った。
冗祐は、かすかに頭痛を覚えた。
なぜ私がこんな麒麟に仕えなければならないのだ・・・。
冗祐の苦悩は果てしなく続くのであった・・・。


ちなみに。
もし冗祐に生身の体があったなら。
間違いなく胃に穴が開いているだろうと豪語したのは。
爆笑すると思われる延王である。


あやりさんから頂きました、この他にはどこにもないであろう、冗祐メインの小説です! キャラシリの冗祐を見て書いて下さったのですが、まさか私にくださるとは夢にも思わずvv 嬉しさのあまり、勝手に挿絵まで描いて送りつけてしまう始末(笑)(冒頭のイラストです)
もうもう、とにかく、どこまでも苦労性の冗祐と、乙女で一途な景麒の多彩な表情に めろめろです!あやりさん、ありがとうございましたvv

そして最後に登場する陽子人形の出自を知りたい方は、あやりさんの HPへ!→ 「ハルジオン」

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